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特集・エロティシズム 女性アーティスト5人の感性 [アート・トップ3月号 2008.2]

思わず吹き出してしまう女体盛りならぬ男体盛り。これも男女平等ということか。 もともとは油彩出身の彼女が、どのようにしてこの作品を制作するに到ったのだろうか?


――芸大では日本画ではなく、油絵を専攻されていたんですね。

油絵は高校3年生から受験のためにはじめたのですが、美大に入学して本格的に学ぶようになったら、 マチエールや陰影といった油絵独特の質感や技法を上手くこなせなくて、コンプレックスを感じていました。 それで自分に適した表現や画材を求めていた頃、ヨーロッパ旅行で行った大聖堂の絵付けのステンドグラスに圧倒的な芸術パワーを感じて、 ステンドグラスで作品を作るようになりました。

その後、映画(2002年公開の「およう」)の中に使う襖に、伊東晴雨の「縛り」の絵を描く仕事をいただいて、無謀にも日本画に初挑戦したんです。 四苦八苦で完成させました。私は油絵で描くと画面がくどくなりがちだったのですが、日本画だとあっさり淡白に表現できる感じがいいなと思いました。 同時進行でやっていたステンドグラスの色面構成や線の表現も、日本画ではよりダイレクトに活かせることができました。

――好きな作家、影響を受けた作家は誰ですか。

北野恒富という大正期の画家です。彼の絵を展覧会で見て感動して、本格的に日本画を学びたいと思いました。 人物の表現が深くて色気があるのと、絵具の使い方、色面構成が上手いので、大いに参考にさせてもらっています。 なかなか真似できないけれど、尾形光琳のゆったりとした線も好きです。土佐の絵金も好きで、ブラッシュストロークがとにかくかっこいい。 狩野派仕込みの画面構成力、流動感はすばらしいの一言です。 洋画ではドミニク・アングルが大好きです。一度アングルの構図に挑戦してみたくて、つい最近オダリスクを描きました。女性ではなくて、 男の子でですけど。

――テーマをエロスに絞ってきたのは、いつ頃だったのですか。

絞ったのは2002年の個展からだけど、もともと興味がありました。山田風太郎のファンで、表紙を描かれていた佐伯俊男さんの絵が大好きだったんです。 でも、学生の頃は、コンテンポラリーなアートをわからなくては美術がわからないのではないかという考えに縛られていて、 そういうのをやってはいけないと思っていました。

70年代のエロティックムービーも一時期はまってビデオでかなり見ました。耽美でアートぽいエロティズムではなくて、 身も蓋もないというか、すごくまぬけで人間臭いんです。出てくる女性も強くて、でもボインで、けっこうバイオレンスなんだけど、 演歌なんかが流れててたまりませんでした。太ももを露にして芸者がバイクに乗っているシーン(1972年公開「温泉スッポン芸者」東映) が凄くかっこよくて、絵にしたいな、と思ったのが最初です。

――男性を描き始めるきっかけは何でしたか?

当初襖絵がらみで「縛り」の女の子の絵を描いたりしていたんですが、なんかもやもやしていました。要望もあったし、SMに興味はあったけど、 なんとなく自分のものではないような…。なかなかモチーフに自分のオリジナリティを求めることができなくて、私は何を表現したいのか、 自分なりのエロティズムとはなんだろうとずっと考えていたんです。

もしかしたら、私は素直に異性の、男の子のエッチな表情を見たいんじゃないか。そう思って、描いてみたらすごく面白かった。 食べることも好きなので、食材など色々工夫して男体盛りシリーズを描きました。それからすっかり男性を描のくにはまりました。 とにかく楽しくて、ほとんど自分のために描いています。

――今後、どんな展開をするんでしょうか。

しばらくは男性を描いていきたいと思っています。ただ、今は露出的な表現より、さりげない色気に惹かれています。 例えばジャニーズの男の子たちを見てると、みんな健康そうに一生懸命踊っているけれど、ファンの女の子たちに媚びる視線やしぐさがすごくいやらしいと 思うんです。そんな女がグッとくる男性のセクシャルな部分を、健康的に描いていけたらなと思っています。

おうじさま屏風は、女の夢、憧れ全開モードで描きました。迎えに来てくれるだの、君を守るだの身勝手な夢ですけど、 心の中で憧れの王子様を夢見るのは自由じゃないかな。是非女性に見ていただきたいです。
今後も女のロマンをコンセプトに色々描こうと思っています。

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